大腸ポリープ・大腸癌とは

大腸ポリープ・大腸癌とは

大腸ポリープは、大腸の内側の壁に突出した腫瘍(しゅよう)の総称です。ポリープは、簡単に言うと「イボ」です。顔や体にできる 「イボ」は放置してもあまり癌にはなりませんが、大腸ポリープは、大きくなると大腸癌(がん)に変化するという点が最も重要です。 但し、大腸ポリープには、癌、将来癌になる可能性のあるもの、癌にならないものが含まれています。 また厄介な事に大腸ポリープは、自覚症状がほとんどなく、本人が気づかない間に大腸にできるため、検診や人間ドックで初めて 見つかることが多いのです。次ページ以降で詳しく解説しますが、一部の大腸ポリープは、大腸癌(がん)のもとになります。日本では大腸癌(がん)に よる死亡者は増加傾向にあり、2015年には肺癌や胃癌を抜いて、最も発生率の高い癌になるとも言われています。

またすでに、女性に おいては、死因第1位は大腸癌(がん)という結果もでています。しかし、ポリープの段階で発見されることは、ある意味で幸運ともいえます。ポリープの段階であれば、癌が含まれるとしても早期の 癌である可能性が高くなります。また、ポリープは大腸癌(がん)になる可能性があるだけでなく、その存在自体が大腸癌(がん)になりやすい人か どうかを示す指標であると考えられます。大腸癌(がん)は早期に発見できれば、治りやすい癌のひとつです。ポリープの段階で発見できれば、 早期治療が可能になるのです。

大腸ポリープというものの正体を理解し、定期的に大腸内視鏡を受け、早期発見に努めることが、 癌で大事な命を失わないための一番の方策であり、また今、患者さまが抱えている不安を取り去ることでもあるのです。

ポリープとポリポージス

大腸をはじめ、小腸や胃などに100個以上生じたポリープを“消化管ポリポージス”といい、通常のポリープとは区別して扱います。

消化管ポリポージスにはいくつかの種類があり、(1)家族性大腸ポリポージス、(2)Gardner(ガードナー)症候群、(3)Turcot(ターコット) 症候群、(4)クロンクハイト・カナダ症候群、(5)Peutz-Jeghers(ポイツ・イェーガー)症候群、(6)若年性ポリポージス、 (7)Cowden(コーデン)病などがあります。これらは腺腫ができるタイプ、過形成性ポリープができるタイプ、炎症性ポリープが できるタイプなどに分かれます。

また消化管ポリポージスは消化管のみならず、その他の全身の臓器に様々な症状を起こす、 いわば全身疾患とみなされています。その多くは遺伝性の病気で、高率でがん化するものがあるため早期発見が重要です。

【1】腺腫性ポリポージス(腺腫がたくさんできるタイプ)

(1)家族性大腸ポリポージス

大腸全体に米粒大~小豆大のポリープが通常、100個以上びまん性に発生します。 その組織は腺腫であり、放置すれば高率に癌化し、しかも常染色体性優性遺伝により 子孫に遺伝していくのです。小腸・十二指腸、胃にもポリープが高率に合併しますので、 この疾患がみつかれば家族全員の検査が必要です。

(2)Gardner症候群

やはり遺伝性を示し大腸に多数の腺腫を生じます。この疾患は線維腫、脂肪腫、 デスモイドなどのやわらかい腫瘤と、骨腫、外骨腫などの硬い腫瘤が合併します。 その他家族性大腸ポリポージスと同様に、十二指腸などにも多発性に ポリープができます。

(3)Tarcot症候群

大腸ポリポージスに様々な中枢神経腫瘍を合併する疾患です。家族性大腸ポリポージスや Gardner症候群のポリープと比較して数は少なめですが大きなポリープができ癌化も高率で あるとされています。

【2】過誤腫性ポリポージス(過誤腫がたくさんできるタイプ)

(1)Peutz-Jeghers症候群

優性遺伝で、口唇、口腔粘膜、四肢末端の色素斑、消化管のポリポージスが特徴となります。 ポリープは大小混在しており過誤腫がほとんどと言われていますが、癌の合併の報告も少なく ありません。特に女性では5~15%に卵巣腫瘍を合併し卵巣癌の合併例も報告されています。

(2)若年性ポリポージス

主に大腸に大小不同の過誤腫性ポリープが発生します。ポリープの性状はPeutz-Jeghers症候群 に似ており、大きなものでは分葉状で茎を有するものが多い傾向にあります。一部では ポリープに腺腫様腺管が混在しているものがあり癌の合併も報告されています。

(3)Cowden病

1)顔面の多発丘疹、2)四肢末端の角化性丘疹、3)口腔粘膜の乳頭腫、4) 消化管ポリポージス、5)多臓器にわたる過誤腫、過形成のような多彩な腫瘤、6) 遺伝性、などを特徴とする疾患であり、高率に癌を合併します。特に女性では乳がん、 甲状腺がん、卵巣がん、消化管がんが発生しやすいとされています。また、 ポリープはびまん性に食道にも発生するのが特徴となっています。

【3】未分類のポリポージス

(1)Cronkhite-Canada症候群

消化管ポリポージスに脱毛、爪の萎縮・脱落、全身の色素沈着などを伴う疾患です。遺伝性はなく、中高年の男性に多い疾患です。 ポリープは食道以外の全消化管にびまん性にみられ若年性ポリープに類似する傾向がありますが、腺腫を伴うこともあり大腸癌(がん)の合併も 報告されています。ポリープはステロイドなどの治療により消退することがあります。

(2)過形成性ポリポージス

過形成ポリープの数が多く、びまん性に出現した場合にこの名称を使います。悪性変化はありません。

大腸ポリープ・大腸癌の分類

大腸ポリープがあると言われた人は、「癌ではないか」「そのうち、癌になるのはないか」と不安をもたれるのではないでしょうか? しかし、大腸ポリープの全てが同じように癌になるわけではありません。大腸ポリープにもいくつかの種類があります。
「ポリープ」というのは、 大腸内腔へ突出した腫瘤を意味する言葉で、ひとつの病気を指す言葉ではありません。大腸の場合、大腸の粘膜からその内側の管腔に飛び出したイボのようなものは、 すべてその形からポリープと呼ばれます。

ポリープには良性と悪性があります。悪性のポリープはいわゆる大腸癌(がん)ですので治療が必要です。一方、良性のポリープはさらに大きく「腫瘍」と「それ以外のポリープ」 に分けられます。腫瘍以外のポリープには炎症性ポリープや過形成性ポリープなどがあります。
炎症性ポリープは潰瘍性大腸炎、クーロン病、虚血性腸炎などの腸の炎症性の 病気や感染症など、腸に強い炎症が起こった後にできます。過形成性ポリープは歳をとると多くの人にみられるもので、一種の加齢現象とも言えます。この2つのタイプの ポリープは、基本的に癌とは無関係です。放置しても大腸癌(がん)になることはほとんどありません。

一方、腫瘍に分類されるタイプのポリープです。
腫瘍性のポリープにも良性と悪性があります。 悪性のポリープがすなわち「癌」です。ただし、癌といって もポリープ状の形をしているのは、多くの場合早期の癌です。 進行癌になると、もはやイボのような突起ではなくなるのでポリープとは呼ばれなくなります。良性の腫瘍は、「腺腫(せんしゅ)」と 呼ばれています。大腸ポリープの80%は腺腫で、特にS状結腸や直腸によくできます。そして、大腸癌(がん)との関係で一番問題になるのが、この腺腫なのです。 癌と同じように、腺腫は粘膜上皮を 形成する腺細胞が異常増殖したものです。そのため、大きな腺腫は癌になる一歩手前の状態(前癌状態)と言われています。 実際に、多くの大腸 癌は腺腫から発生すると考えられています。5mm以下の腺腫に癌がまじっている可能性はほとんどありません。しかし5mmから10mmの腺腫に癌が 混じっている可能性は4~5%といわれています。10mm、20mmと大きくなればなるほど癌が混じっている可能性がより高くなります。5%といえば20個に1個ということに なり結構な確率といえます。したがって5mm以上の腺腫は内視鏡的に切除し全体を調べる意義があると考えます。

このようにポリープといっても、そのタイプによって 意味合いは全く異なります。無用な心配をしないためにも、ポリープがどのタイプなのかをしっかりと診断することが大切です。腫瘍か腫瘍以外のポリープかは内視鏡 でほぼ判断がつきます。判断が難しい場合には、安全性を期して腫瘍と同じ扱いをする、つまりある程 度以上の大きさがあれば、切除して組織を確かめるのが原則です。最近では拡大内視鏡という顕微鏡を備えた大腸内視鏡があり、早期大腸癌(がん)の診断や治療の適応決定に威力を発揮しています。
また、大腸ポリープはその形態によっていくつかの種類に分けられます。大腸ポリープの場合はその出っ張りの形態からIsタイプ、Ispタイプ、Ipタイプがあり、 特殊なものとして偏平腫瘍あるいは側方発育方腫瘍(LST)と呼ばれるものがあります。このLSTにはさらに表面がでこぼこした結節型(granular type)と表面が比較的平らな 非結節型(non-grannular type)があります。この中ではIpタイプやnon-grannular typeのLSTに癌が混在している可能性が高いようです。このように大きさだけではなく形態分類も 重要な診断治療の指標となります。

大腸ポリープの癌化

腺腫が「癌」になる可能性

【大腸進行癌(がん)の写真】

大腸腺腫が癌になる可能性は、どれくらいあるのでしょうか?
以前は、「腺腫はすべて前癌状態である」、つまり、癌になる一歩手前の状態であると考えられていました。 しかし現在では、癌になるのは腺腫のほんの一部であることがわかってきました。どのような腺腫が癌になるのでしょうか? ここでポイントになるのが、腺腫の大きさです。

腺腫の直径が5mm を超えると一部癌化したものが出てきます。さらに10mmを超えると急激に癌を含む可能性が高くなってくるのです。 また腺腫は、ある期間同じ大きさにとどまり、ある時期から大きくなり始め、またその大きさにとどまるというように段階的に増大していき、一直線に大きくなることはないようです。
その理由はよくわかっていませんが、遺伝子の変異とも関係しているのではないかと考えられています。 よく知られているように、癌は癌遺伝子や癌抑制遺伝子など、複数の遺伝子の異常が積み重なって起る病気です。遺伝子が傷ついて変異を起こすにつれて、 正常の組織から腺腫、さらに癌へと進展していくと考えられています。

おそらく、腺腫の段階的な増大も、こうした遺伝子の変異と大きく関係しているのではないかと 思われるのです。つまり、ひとつの遺伝子が傷つくと増大のスピードが増し、また次の遺伝子が傷つくと次の増大が起るという具合です。 しかし、将来的にどういう腺腫が大きくなっていくのかを、小さいうちから判断することは困難です。わかっているのは、5mm以上の大きさになると、 増大するにつれ癌を含む可能性が次第に高くなるということです。

「癌」か「腺腫」か?

では「癌」と「腺腫」はどのように見分けるのでしょうか?専門家が癌と診断する時には、ポリープの組織や細胞の形が正常の組織や細胞とどのくらい違うかを判断の基準としています。 これを「異型度(いけいど)」といいます。実際には、内視鏡などでとってきた組織の断片を顕微鏡で観察(病理検査)し、その形から診断を下すわけです。これを「病理診断」といいます。 正常な組織では細胞はみな同じような形をしており、一定の秩序に従って整然と並んでいます。ところが癌になると勝手気ままに細胞が増殖していくために細胞の核が大きくなり、 並び方の秩序がなくなります。実際には正常な組織と癌ははっきりと2つに分けられるものではありません。両者の間にはいくつかの変化の段階があります。 腺腫もその中間段階に含まれています。正常の組織とどれだけ違っているかによって軽度異型、中等度異型、高度異型という段階に分類します。 異型度が強くなるほど癌に近い状態ということになります。正式には検査された組織は、正常から癌まで、5つのグループに分類されます。

グループ1 : 正常もしくは炎症性変化
グループ2 : 炎症性の変化がある
グループ3 : 腺腫性で軽度、または中等度の異型=腺腫
グループ4 : 腺腫性で高度の異型または癌を疑うもの=腺腫と癌の一部
グループ5 : 明らかな癌 (大腸癌(がん)取り扱い規約より改変)


グループ1)であれば心配なし、グループ5)であれば癌、その中間に位置するのが腺腫です。腺腫は異型度が強いほど、より癌に近くなり、また癌になる 可能性も高いと考えられています。腺腫は大きくなるほど異型度が強くなる傾向があります。

摘出が必要なポリープとは?

以前は、腺腫は前癌状態であるとみなし、すべての腺腫が発見され次第、摘出されていました。しかし、現在では腺腫でも、癌化の危険度の高いものにし ぼって選択的に摘出するという考えに変わってきています。そこで、日本では5mm以上の大きさのポリープが摘出の対象とされています。

5mm未満のポリープは経過観察でよいと考えられていますが、科学的な根拠はありません。したがって、平坦型で陥凹のあるものや、形がいびつであるなど特殊なタイプのものは、 5mm未満でも発見され次第、摘出されます。一方で、発見したポリープは全て摘除するという考え方もあります。理由は発見したポリープが 「癌になる、ならない」ということのみならず、「小さなポ リープをすべて 【拡大内視鏡の写真】 取り除いた後は大腸内視鏡を毎年受けなくてもよいのではないか」という考え方に基づいています。 最近では拡大内視鏡が次第に普及してきています。

これは内視鏡の先端に顕微鏡を備えているものでポリープの表面の模様をパターン分類し病理組織並みの診断を試みるもので、 特に内視鏡的ポリープ切除術の適応決定などに役立っています。

ポリープと無関係な「癌」

ところで、大腸癌(がん)は本当にポリープにさえ注意していればいいのでしょうか?確かに、以前はすべての大腸癌(がん)は、ポリープの形から始まるとされていました。 しかし、現在ではこの考え方は否定されています。ポリープから発生しない癌、隆起にならずに平坦なまま、癌化することがわかってきたのです。 こうした平坦な癌は、「デノボ癌」と呼ばれています。これは、おそらく遺伝子変異の順番の違いからくるのではないかとする説が現在では有力です。

大腸癌(がん)はポリープだけから発生するものではないこと、そして意外にデノボ癌は多いのではないか、と最近は言われています。また、こうした遺伝子異常 の筋道が解明されることで、 将来的には細胞や組織の形で癌の診断(病理診断)をするだけではなく、遺伝子から精密に、癌の診断が可能になるのではないかと期待されています。